2011年4月21日木曜日

IAISの「ALMイシューペーパー」を読む(5)

IAIS(保険監督者国際機構)作成の「ALMイシューペーパー」(「資産負債管理に関するイシューペーパー」(2006))を読む。<パラグラフ5からパラグラフ8>

パラグラフ5
保険会社は、リスク要素(例えば、利率、株式および通貨)、およびポートフォリオ全体にわたって、その市場リスクへのエクスポージャーを測定可能であるべきである。保険会社は、市場リスク要素に対するエクスポージャーを測定する為に、適切な測定基準を設定すべきである。
全ての資産について、全てのリスクに対しエクスポージャーを測定すべき、という意味だろう。
測定するためには何らかの測定基準が要る、というのはあたりまえだと思うが。

パラグラフ6
市場における信用スプレッドは、市場リスクの主要な要因になり得る。例えば、仮に保険会社の有する負債が非流動的もしくは保険会社のコントロール下にあるならば(訳注2)、保険会社は高利回りを獲得するために、流動性の低い社債市場に多くの割合を投資するだろう。金利は一般的なクレジット市場の状態変動に影響を受け、特に極端な状況下においては、格付けの広範囲の低下につながり、債券の格付けに応じてスプレッドは大幅に変動することになる。ある監督区域においては、クレジット・デリバティブと共に、国債からなる複製ポートフォリオを保有することで、このリスクをより柔軟に管理することが可能になる。
(訳注2)例えば、保障性商品の場合で、契約者行動が非金利感応的であれば流動性リスクは比較的小さいと言えるかもしれない。また、契約者配当については、会社がその水準の決定権(裁量権)を有している場合が多く、これも保険会社のコントロール下にあると言えるかもしれない。
 「ALM基準」およびイシューペーパーの発行は2006年でありサブプライムローン問題/リーマンショックの前なので、それらを意図した文章ではないはずだ。そうではなく、"性質は金利に近いが、金利よりもボラティリティの高い"ものとして注意を促しているものと思う。
パラグラフの趣旨はよく分からないのだが、深く読もうとせず"注意しろ"ぐらいに思っておけばいい気がしている。
"負債が保険会社のコントロール下にある(liabilities that are discretionary)"というのは確かによく分からない。訳注で補足されているように、契約者配当などのことを指していると読んでなんとか理解できるような。ひょっとすると外国ではこの表現がしっくり来るような例があるのかもしれない。

パラグラフ7
金利のモデリングにおいては、イールドカーブのシフト、ツイスト、およびベンド1のシナリオについて個別に、およびそれらの様々なもっともらしい組み合わせを含むべきである。
"ベンド1"となっているのは、"ベンド"の右肩に1を書きたかったのだろう。つまり、枠外の注1
シフトは、イールドカーブの平行な移動(すなわち、全ての満期利回りが同程度だけ上昇または下落する)を意味する。ツイストは、イールドカーブの回転(すなわち、イールドカーブの傾きが同様(同方向)に変化する)を意味する。ベンドは、短期および長期の満期の利回りが、中期の満期の利回りに対して(それぞれが)反対の方向へ移動する(すなわち、イールドカーブの曲率が変化する)ことを意味する。
を参照しろということである。これは、原文にある注である。
パラグラフ27にある注2では右肩に2を乗せているので、やはりこれは誤植だろう。
金利シナリオについて、"イールドカーブのシフト、ツイスト、ベンドの様々なもっともらしい組み合わせ"ということであり、ショック(ある時点で急激に変化する)やストレスシナリオは挙がっていない。ALMで対象としているのはそういった通常の変化に対しての最適化であり、ソルベンシーやリスクマージンのような話はスコープ外、ということだろうか。

パラグラフ8
複雑なポートフォリオを有する保険会社は、ポートフォリオのモデル化に際し、単一ポートフォリオを有する保険会社よりも、より洗練されていることを実証することが期待されるだろう(例えば、確率論的な金利モデル)。時に、保険会社は、モデルの簡明さや保守性と、精緻さや正確さとの間のトレードオフについて考慮決定しなければならない場合があるだろう。これらの決定は透明な方法で行うべきである。すなわち、明確に理解されていることと、文書化されていることである。
"複雑なポートフォリオ"、"単一ポートフォリオ"であるが、原文では"complex portfolio"、"simple portfolio"であり、後者は"単純なポートフォリオ"と訳すほうが自然ではないかと思った。まず"単一ポートフォリオ"というのが解釈できない。まさかひとつの資産で運用しているという意味ではないだろうし。

第1文は"ポートフォリオの複雑さに応じて高度なモデル化が必要である"と解釈してみたが、これでいいのだろうか。
その場合、第2文以降は"複雑さに応じて高度なモデル化"の複雑さと高度さの対応を明確にし、文書化し、決定しなければならないという風に読めるが。それは・・・ものすごく難しくないか?
ともあれ、「重要度が低ければ、技術的に可能であっても、モデルの精緻さを高めなくて構わない」と読めることが書いてあるのは、実務上とても重要な気がする。上のパラグラフで"全てのリスクとエクスポージャーを計測しろ"と言っておいた上で、"重要でないリスクやエクスポージャーの計測は粗くて構わない"とする流れは、個人的には賛成である。


ここまで市場リスクの話であったが、やはりALMだけあって、常に金利が関心の中心であるという印象を受けた。また、対象となるリスクについてのパラグラフではあるが、モデルの話など、管理手法等へ言及もあった。しかしそれは逆に、こういった管理手法等でアプローチできるリスクがALMの対象である、という風に解釈するためのものかもしれないとも思った。

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