2014年1月3日金曜日

生命保険会社の責任準備金

アクチュアリーの最も重要な業務は「保険料率の作成」と「責任準備金の算出」だと思っているのですが、この後者の「責任準備金」というものがどうもアクチュアリー以外にほとんど理解されていないような気がします。

そう思って調べてみると、責任準備金に関する説明というものは、アクチュアリー向け以外にはあまり充実していないということに気がつきました。結構様々な目的や異なる方法で計算された多義的な概念だから一口に説明するのは難しいけれど、だからこそ相応のボリュームの情報が、もう少しパブリックな場所にあってもいいのになあ。


以下、生命保険の分野において「責任準備金」がどのように説明されているか、生命保険会社等のWEBサイトにある「用語集」の内容を調べてみたまとめです。
損保分野や年金分野での説明はもう少し違うと思いますが。


  • 将来の保険金等をお支払するために保険料の中から積立てるお金をいいます。
日本生命のサイトより。(http://www.nissay.co.jp/words/sa/039.html)
アイエヌジー生命、アクサダイレクト生命、朝日生命、アフラック、NKSJひまわり生命、住友生命、第一生命、チューリッヒ生命、東京海上日動あんしん生命、東京海上日動フィナンシャル生命保険株式会社、フコク生命、明治安田生命、メットライフアリコ、メディケア生命がほぼ同内容であり、用語集におけるスタンダードな説明はこちらになるようです。

  • 保険会社が将来の保険金・年金・給付金の支払いに備え、保険料や運用収益等を財源として積み立てている準備金のことを言います。
損保ジャパンDIY生命のサイトより。(http://faq.diy.co.jp/faq_detail.html?id=62&category=92)
上の日本生命等の説明では積立財源が「保険料の中から」となっていますが、こちらは「保険料や運用収益等」となっています。第一生命は「責任準備金」と「責任準備金(ディスクロージャー用語)」の2つ項を立てているのですが、「責任準備金」の項では日本生命等の説明と同様の書きぶり、責任準備金(ディスクロージャー用語)」の項では運用収益等を財源に含む説明としています。また、楽天生命も「責任準備金」と「標準責任準備金」の2つ項を立てており、「標準責任準備金」では運用収益等を財源に含む説明としています。

  • 責任準備金とは、生命保険会社が将来の保険金および年金などの支払いを確実に行うために積み立てているお金のことをいいます。
クレディ・アグリコル生命のサイトより。(http://www.ca-life.jp/glossary/)
上記とは逆に、財源が何かについては言及しない説明になっています。実際、財務諸表に出てくる「責任準備金」は、部分的に見れば収入保険料や運用収益以上に積み立てることもあります。
オリックス生命、ライフネット生命の「保険料積立金」の項、三井住友海上プライマリー生命が同様の説明となっています。


  • 責任準備金は、将来の保険金・年金・給付金の支払いに備え、保険業法で保険種類ごとに積み立てが義務付けられている準備金です。責任準備金の積立方式の代表的なものには、「平準純保険料式」と「チルメル式」があります。
生命保険協会発行の「生命保険会社のディスクロージャー~虎の巻」 2011年版より。(http://www.seiho.or.jp/data/publication/tora/pdf/tora2011_yougo.pdf)
オリックス生命、ライフネット生命が同様の説明となっています。財務諸表上の責任準備金の説明としてはかなり正確な表現だと感じます。


  • 責任準備金は、生命保険会社が将来の保険金などの支払いを確実に行うために、保険料や運用収益などを財源として積み立てる準備金で、法令により積み立てが義務づけられています。責任準備金の性格については前述のとおりですが、実際の積み立ては、標準責任準備金制度によりなされ、計算に使用する予定率は保険料のそれとは異なる場合があります。
    個人向けの生命保険商品の多くは、金融庁が標準レベルを設定する標準責任準備金制度により積み立てがなされます。標準責任準備金制度では、平準純保険料式で積み立てることとされ、予定死亡率は日本アクチュアリー会が作成し、金融庁長官が検証したもの、予定利率は国債の利回りを基準に健全な水準に設定されたもの(平成19年4月時点で1.5%)とされています。標準責任準備金制度の対象とならない保険契約についても原則として平準純保険料式により積み立てることとされています。
    なお、貸借対照表上の「責任準備金」には、危険準備金が含まれます。
    また、ディスクロージャー誌には、責任準備金の内容について分析するため、個人保険、個人年金保険、団体保険、団体年金保険などの区分ごとに残高が開示され、さらに個人保険と個人年金保険については、契約年度(2005年度以前は5年ごと)とその予定利率が開示されています。

    出典 : (社)生命保険協会発行「生命保険会社のディスクロージャー虎の巻2007年版」より
第一生命は「責任準備金」と「責任準備金(ディスクロージャー用語)」の2つ項を立てていますが、これは責任準備金(ディスクロージャー用語)」の説明です。

  • たくさんの人から長い間に亘ってたくさんのお金を集める保険会社。

    大災害などが起きて、多くの人がいざ保険金を請求しようとしたら、肝心の保険会社に保険金を支払うお金がありませんでしたというのでは、困った人々をさらに苦しい立場に追い込むことになりますし、社会の安定が図れません。

    そんなことのないように、保険会社は法律により、保険料の中から将来の保険金や給付金支払いのための準備金を積み立てることを要求されています。
    これを、責任準備金と言います。責任準備金の中には、保険金支払いの為のものばかりではなく、解約払戻金を支払うための準備金なども含まれます。
    いわば、保険を契約している人達全体のための共有の準備財産と言えるでしょう。
楽天生命のサイトより。(http://www.rakuten-life.co.jp/learn/glossary/se02.html)
楽天生命は「責任準備金」と「標準責任準備金」の2つ項を立てていますが、これは「責任準備金」の説明です。

  • 生命保険会社が、保険契約に基づく将来の保険金や解約払戻金の支払いを契約者に対し確実に行うために、保険料や運用収益などを財源として積み立てる準備金のことを責任準備金といいます。

    保険業法88条および同施行規則により積み立てが義務づけられています。
    この責任準備金の積立水準は、積立方式と計算基礎率により決定されます。

    従来は保険会社の保険料の計算で決定されていましたが、平成8年4月の新保険業法施行以降は、金融庁が保険会社の健全性の維持、保険契約者の保護の観点から標準責任準備金を定めるようになりました。
    標準責任準備金制度の規定内容は、1996年大蔵省告示第48号に規定されていて、積立方式については平準純保険料式が採用されています。

楽天生命のサイトより。(http://www.rakuten-life.co.jp/learn/glossary/hi02.html)
楽天生命は「責任準備金」と「標準責任準備金」の2つ項を立てていますが、これは「標準責任準備金」の説明です。
ちなみに責任準備金に関する条文は保険業法116条が正しいです。88条というのはおそらく平成8年の全面改定前の、いわゆる旧保険業法の時の話だと思います。


  • 責任準備金とは、生命保険会社が将来の保険金・年金・給付金の支払いに備え、保険料や運用収益などを財源として積み立てている準備金のことをいう。
    これは、保険業法によって積み立てが義務づけられている。
    加入している生命保険会社が破綻した場合、「生命保険契約者保護機構」では、破綻したときに補償対象となっている契約の責任準備金の90%を限度として補償する。
    生命保険契約者保護機構とは、加入している生命保険会社が破綻した場合における、契約者の保護を目的とした機構であり、日本で営業している生命保険会社は、この機構に会員として加入している。
「保護機構」について触れているのが特徴的です。責任準備金の説明の中で保護機構の説明を行うというのは生命保険会社自身の用語集では例がありませんでしたし、私も考えたことがありませんでしたが、確かにニーズとしては分かる気がします。
他にも、カブドットコム証券、NTT東日本などの用語集で同様の説明となっているため、どこか元ネタがあるのかもしれません。


最後に、「用語集」ではない、もう少し固い定義を。
  • 保険会社は、毎決算期において、保険契約に基づく将来における債務の履行に備えるため、責任準備金を積み立てなければならない。
保険業法 第116条(責任準備金)より。
保険業法に「責任準備金の定義」はなく、実質的にこれが定義になろうかと思います。保険業法ではこの意味で「責任準備金」の語を使用しますが、これは保険法における「保険料積立金」とは異なります。
債務の履行に備えるためですので、保険金や解約返戻金の支払だけでなく、保険料の免除や将来の事業費負担を考慮したり、将来の責任準備金の積立を確保する目的で積み増されることなどもあります。


  • 保険者は、次に掲げる事由により生命保険契約が終了した場合には、保険契約者に対し、当該終了の時における保険料積立金(受領した保険料の総額のうち、当該生命保険契約に係る保険給付に充てるべきものとして、保険料又は保険給付の額を定めるための予定死亡率、予定利率その他の計算の基礎を用いて算出される金額に相当する部分をいう。)を払い戻さなければならない。
保険法 第63条(保険料積立金の払戻し)より。
こちらでは、将来の給付に備えるための金額ではなく、契約者の持ち分として「保険料積立金」の語が使用されています。このへんの用語の多義性がややこしい。

  • 1.責任準備金とは、「保険契約に基づく将来における債務の履行に備えるため、保険事故の発生、事業費支出および資産運用状況などを考慮し、会社の将来の支払能力に支障が生じない水準となるように当該債務を保険数理的に評価した、会社の積み立てなければならない金額」である。
    2.前項の支払能力とは、「現時点で合理的に予測される、保険契約に基づく保険金および解約返戻金などの将来における給付額を、会社が遅滞なく支払う能力」である。
生命保険会社の保険計理人の実務基準 第8条(責任準備金)より。
保険業法の定義の解釈のような形になります。


各社の用語集の内容はこちらのスプレッドシートにまとめてあります。興味のある方はご覧ください。


2014年1月2日時点の内容です。国内の生保はひと通り確認したつもりですが、用語集が発見できなかったサイトを取りこぼしているかもしれません。 生命保険会社以外については、検索してヒットしたものを適当に選びました。

2 件のコメント:

  1. 協会の標準責任準備金の記述ですが、金融庁が標準レベルを設定するのかしら?

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    1. >ibtさん
      正面切ってそう聞かれると、やや不正確な表現だとは思いますが・・。その後の説明で補足されているのでそんなに違和感は感じませんでした。
      「金融庁が標準レベルを設定する」だけ抜き出すとまるで金融庁が各社の責任準備金を定めているみたいで、確かに誤解されそうな表現ですね。

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