2011年5月25日水曜日

IAISの「ALMイシューペーパー」を読む(10)

IAIS(保険監督者国際機構)作成の「ALMイシューペーパー」(「資産負債管理に関するイシューペーパー」(2006))を読む。<パラグラフ23からパラグラフ27>

ここから「3.異なる商品区分への資産負債管理の適用」に入る。

パラグラフ23
資産負債管理戦略は、商品区分によって異なる。商品は監督区域ごとに異なることがあるため、以下に提示された事例は、説明目的での例示にすぎない。
実際、他の章と違って網羅的でもないし、日本の(しかも最近の)商品しか知らないとピンと来ない例が多い。

「ALM基準」ではパラグラフ28から29が同名の章となっている。
(ALM基準)
28.資産負債管理リスクは、商品の持つ特性及び適切な投資戦略という両方の点において、保険種類ごとに異なるものである。保険会社は、負債と対応する資産をいくつかのブロックに区分することで、より高度なリスク管理が可能となる場合がある。区分を行うことの利点は、保険会社が、異なる商品区分に固有のニーズに応じた投資・資産負債管理戦略を採用することが可能になることである。しかしながら、各々の商品区分にとって最適な資産負債管理戦略を単に組み合わせることが、常に会社全体の戦略の最適解になるわけではない。例えば、リスクを相殺するような特性を持つような商品区分どうしは、一体として管理する方が効率的である場合もある。資産負債管理戦略は、利用可能な自己資本と当該資本がもたらす柔軟性に依存するであろう。
(ALM基準)
29.特定の資産負債管理戦略の策定が必要となる保険種類もある。例えば、以下の項目が挙げられる。
● 予め決められた日に負債の支払が保証されている。
● 資産のキャッシュフローが再投資される。
● 収益の主源泉がスプレッド、すなわち、資産運用収益と負債の保証利率の差からなっている。
● 金利スプレッドに含まれるプロフィット・マージンが、資産と負債に比較して小さい。
● 負債のデュレーションに適したデュレーションを持つ資産を見つけるのが困難である。
● 保証を尊重した適切な資産が求められる顕著な運用パフォーマンス特性。
● 一つもしくはそれ以上の金融オプションで、ダイナミック・ヘッジングの技術が資産負債管理上必要とされる可能性があるもの。
● 多くが出再されている保険契約で、元受会社の保険金支払を、再保険会社からの支払前に行う必要がある。
異なる商品に対する資産負債管理での検討事項例については、付属の「資産負債管理に関するイシューペーパー(2006)」を参照のこと。

パラグラフ24
積立型年金、据置年金
金融仲介業タイプの商品に関して資産負債管理は重要である。積立型または据置年金の採算はキャッシュフローから得られる利益率に依存する。利率の利ざやのマージンは比較的少なく、したがってその採算を維持するために、資産負債管理は不可欠である。しかしながら、これらの商品は通常、平準払または一時払保険料のビジネスであり、選択される満期日は例えば5年から10年と比較的短期のものである。したがって、リスク管理は比較的容易であるだろう。しかしながら、もし当該商品が、以下の契約者オプションを提供している場合、資産負債管理は一層複雑になる。その契約者オプションとは、解約返戻金に市場価値調整が無い場合の早期解約オプション、将来の保険料預託金に対する利率保証や年金開始時に保証されたキャッシュまたは年金の選択オプションなどである。(訳注3)
(訳注3)5年から10年の短期のものは、リスク管理は比較的容易と述べられているが、理論的には簡単な部類に属するものの、規模などによっては、ヘッジ行為が市場を動かしてしまうため、実務的な困難が発生する場合もあるので注意する必要がある。また、保険料の支払い方法が一時払でない場合は、金利のFRAと同じリスクがある。

この訳注は、流石と思った。まさにそういう事に注意しろと上のパラグラフで言われたばかりだ。


パラグラフ25
預託基金
保険会社がある種の商品区分に対し、資産負債に関してアンマッチな立場を維持することを選択する場合がある。例えば、保険契約者がいつでも現金化できる、日歩ベースの積立金の場合である。この場合、資産を全額現金で保有することが保守的であるだろうが、一方で、経験的には全ての保険契約が即座に現金清算するわけではないため、長期のデュレーションの資産を保有することは正当化されるだろう。こうした商品に関して、価格設定と保証利率は市場の金利変動に即座に反応しなければならない。というのは陳腐化した(stale)利率は、利率が高すぎる場合は損失を、低すぎる場合は売り上げの低迷を招くからである。

これはアンマッチというのだろうか。"保険契約者がいつでも現金化できる"という意味で言えば解約返戻金も同じである。常に全件解約時の支払額相当の現金を保有していなければアンマッチだ、とは普通言わないと思う。
"いつでも現金化できる"を"支払いの可能性がある"の意味で取るならば、保険金額全額を現金で保有していることなど不可能である。
現実的な解約率や市場金利の水準にマッチしていれば、マッチしていると言えるのでないだろうか。(結論としてはそれでいいと書いてあるのだが。)


パラグラフ26
支払年金、終身年金、即時(開始)年金
積立型年金および据置年金と同様に、支払年金も利ざやビジネスとして価格設定され、その採算は、キャッシュフローから得られる利益率に依存している。利率における利ざやは比較的少なく、したがってその採算を維持するために、資産負債管理は不可欠である。こうした商品は通常、一時払保険料のビジネスであり、確定満期日を持たない。これらの商品は通常非常に長期のデュレーションを有し、全体としてデュレーションは、発行時の資産と完全にマッチしていないだろう。したがって、資産負債管理においては、死亡率リスクと同様に、将来の再投資リスクも考慮されなければならない。長期のデュレーションに対して、資産負債管理の一環として株または不動産投資を活用する保険会社においては、これらの投資に関連するリスクは、総リスク許容度の観点から注意深く熟考され、モニターされなければならない(訳注4)。
(訳注4)ALMの一部として株式や不動産を長期負債に対応させる例(コアテールアプローチともよばれる)があげられているが、対応の根拠は不明であり、この対応によって経済価値のリスクがコントロールできるわけではない。ここでは、株式や不動産の保有理由の例のひとつとして示されているだけで、少なくとも経済価値の視点からは、この対応に何らかの支持が与えられているとは考えにくい。株式や不動産の保有は、保険会社としてのリスクテイク方針の問題として議論されるべきことが強調されていることが重要である。

負債側のデュレーションが超長期になる場合がある、というものの単純な例。
しかし「それにはこういう手がある」みたいな内容がないので、「そうだね、昔からよく言われているよ」で終わりそうな内容な気がするが。


パラグラフ27
無配当長期生命保険
無配当生命保険契約は、ユニバーサル保険契約またはユニット・リンク商品と同様に、長期負債から構成されている終身または養老タイプの商品である。この種の保険契約に関する資産負債管理は、当該契約の死亡率および解約率等の発生可能性に基づいたキャッシュフローを含むべきである。さらには、資産負債管理におけるキャッシュフローは将来の保険料のキャッシュフローおよび適切な範囲での将来の再投資率の前提を含むべきである。例えば、ユニバーサル保険契約2またはユニット・リンク商品は、キャッシュフローの予測を困難にする多くの機能を含むが、それには保険契約者が一定期間保険料の支払を休止する、または不定期に通常よりも高額の支払を行う等のオプションが含まれる。
2 ユニバーサル保険契約は、保険料支払いの自在性が組み込まれた保障内容を調整可能な保険契約である。保険契約者は払い込みが可能な保険料を選択し、保険給付金は保険料に応じた額となる。または、保険料払込者は、保険金総額を変更し、それに従い保険料を支払うことが出来る。
無配当終身保険とユニバーサル保険は複雑さが結構違う気もするが・・・。
どうでもいいが、ユニバーサル保険に注2がついており、ユニバーサル保険の説明が欄外にあるのだが、なぜ1文目の"ユニバーサル保険"に注を付けず最後の文の"ユニバーサル保険"に注をつけたのだろうか。原文からそうなっている。

"当該契約の死亡率および解約率等の発生可能性に基づいたキャッシュフローを含むべき"というのはこの商品に限った話でなく、全ての商品に共通であると思う。
重要なのはまずひとつに長期性であって、例えば解約率を考えるにしても上の据置年金なんかでは金利への感応やある時点でのショックラプスのようなものが重要度が高いだろう。逆に終身保険なんかでは、解約率の水準の僅かな違いで30年後の残存数が全く変わってくることも重要である。一口に解約率といってもそういった商品ごとの特性に注意すべきなのだろう。

ユニバーサル保険になるとキャッシュインのシナリオが一層複雑になる。

0 件のコメント:

コメントを投稿