2011年6月2日木曜日

IAISの「ALMイシューペーパー」を読む(12)

IAIS(保険監督者国際機構)作成の「ALMイシューペーパー」(「資産負債管理に関するイシューペーパー」(2006))を読む。<パラグラフ33からパラグラフ38>

ここから、「4.資産負債管理の測定手法」に入る。

パラグラフ33
本セクションでは基本的な測定技術の一部、およびそれらが資産負債管理にどのように利用することができるか紹介する。
「ALM基準」では第3章に該当する。
(ALM基準)
3.資産負債管理の測定手法
14.保険会社は、各社がさらされているリスクの大きさを測定する上でさまざまな資産負債管理の手法を使用する。使用される測定手法の種類は、保険会社の置かれた環境(経営情報システムの特徴やそれがどの程度高度かということを含む)や保険事業のリスク特性と整合的でなければならない。測定手法は、保険会社のリスク許容度だけでなく利用可能な資本量とも整合的になるように選択しなくてはならない。商品区分や資産区分ごとに、異なる測定手法を用いることが適切である場合もある。使用される測定手法は、取締役会や上級管理職が定めた資産負債管理の目的を反映させたものとしなければならない。例えば、資本が少ない会社においてはソルベンシー・マージンの絶対額を保持することを目指す一方で、十分な資本を備えている会社の場合はリスク対比での資本の割合率の維持を目指すことになるだろう。資産負債管理の測定手法の詳細については、IAISによる「資産負債管理に関するイシューペーパー(2006)」を参照。
要件Ⅲ 資産負債管理に利用される測定手法は、保険会社の事業特性や置かれた環境、及び、会社の商品区分のリスク特性に応じたものであるべきである。

パラグラフ34
デュレーションとコンベクシティ
34.デュレーションとコンベクシティは確定利付証券と有利子負債の金利リスクの重要な尺度である。デュレーションは利率の変化に対する資産価値の感応度を表す。デュレーションは単純化した尺度であり、慎重に使用しなければならない。コンベクシティは利率に関するデュレーションの変化率を表す。これは、商品のデュレーションが利率の変化に対してどの程度感応的かを表す尺度ということである(つまり、その商品の価格プロファイルの曲率を表す)。両方の概念とも、利率のツイストやベンドに対してではなく、イールドカーブの小さなパラレルな利率変化に対してのみ適用される概念であることに注意する必要がある。尺度は、マコーレー・デュレーション、修正デュレーション、実効デュレーション、マネーデュレーションを含む(それぞれの言葉の定義は付録の用語集を参照)。(訳注6)
(訳注6)パラグラフ7参照。
デュレーションもコンベクシティも基本的には微分値であるから、局所的な情報以外は持っていない。それでもって大域的な議論をするな、というのは数学的には常識以前の話であるが、金融や経済の分野ではそういった議論が割とまかり通ってしまっている。
しかしデュレーションに関してはちゃんと「局所的な議論にとどめろ」という注意をほうぼうで見かける。理由はわからない。


パラグラフ35
デュレーションは、単一の通貨の範囲内での金利リスクのみ測定し、複数の通貨にわたって統合することが出来ない。また、デュレーションは大きな要因変化を捉えるのに利用することが出来ない。
複数通貨についての議論は読んだことがないので知らない。この文で何が言いたいのかも解しかねている。
また、要因変化といった複雑な分析は当然デュレーションという単純化された指標からは読み取るのは難しい。イールドカーブや資産・負債の状況に大きな変化があったことをキャッチする道具の一つにはなると思う。


パラグラフ36
デュレーション・マッチングにおいて、デュレーションとコンベクシティという尺度は資産と負債のポートフォリオを金利変動からイミュナイズするのに利用される。つまり、そのポートフォリオのサープラス(資産-負債)は、対資産合計の比率で金利が変動したときでも影響を受けない。
ここでイミュナイズを"つまり、そのポートフォリオのサープラス(資産-負債)は、対資産合計の比率で金利が変動したときでも影響を受けない"と説明している。
「(資産-負債)/資産 が一定」 は 「負債/資産 が一定」と同値である。


パラグラフ37
ポートフォリオのイミュナイゼーションのために、以下の3つの基準が満たされなければならない。(訳注7)
● 資産の現在価値は負債の現在価値と同等でなければならない
● 資産および負債のデュレーションは同等でなければならない
● 資産のコンベクシティは負債のものより大きくなければならない
(訳注7)第一の基準は、狭義に負債対応資産を特定した場合の基準と考えられる。たとえば、負債対応資産に加えて現預金を保有する場合も、第二・第三の基準を満たせば、イミュナイゼーションは成立する。
ここで挙げられている基準について、

(1) 資産の現在価値は負債の現在価値と同等でなければならない
(2) 資産および負債のデュレーションは同等でなければならない
(3) 資産のコンベクシティは負債のものより大きくなければならない

と番号を振っておく。

一般的に"イミュナイズ"という言葉で「金利の変動に対する資産(あるいは負債)の変動を0にする/減少させる」という行為を指すが、多くのテキスト等(例えばアクチュアリー試験の指定テキスト『新・証券投資論I・Ⅱ』)においてイミュナイゼーションとは、「資産と負債のデュレーションを合わせること」あるいはそういった投資戦略のことと書かれている。これは基準(2)のみを指している。

一方、訳注ではイミュナイゼーションとは基準(2)(3)のことを指すとしており、見ての通りイシューペーパーでは基準(1)(2)(3)の事だとしている。

結局イミュナイゼーションとは何か、という疑問が生じるのだが、おそらく統一的な定義は現在なされていないのだろう。

そこで、とりあえずこの基準(1)~(3)が何を意味しているかを、数式上で確認しておく。

<用語・定義・前提>
一年のスポットレートをi、イールドカーブは単純に(1+i)tとする。
iの函数である資産、負債の価値をそれぞれA(i)、L(i)とする。C2級。
Aのデュレーションを-A'/A (Aの一階微分をAで割ったものの-1倍)で定義する。(いわゆる"修正デュレーション")
AのコンベクシティをA''/A (Aの二階微分をAで割ったもの)で定義する。
Lのデュレーション、コンベクシティも同様。

<考察>
基準(2) -A'/A = -L'/L を満たしているとする。
この時
L・A' = L'・A なので、
(L/A)' = (L'・A - L・A')/A2 = 0
よってiの微小な変化に対し、負債/資産の比率は変化しない。
これが最も基本的なイミュナイズである。また、イシューペーパー・パラグラフ36の内容に当たる。

基準(2)に加え基準(1) A = L を満たしているとする。
この時
(L - A)' = L' - A' = L'/L - A'/A = 0
よってiの微小な変化に対し、負債と資産の差額は変化しない。
これが訳注にあるイミュナイズである。

基準(2)に加え基準(3) A''/A > L''/L を満たしているとする。
この時
L・A'' > L''・A なので、
(L/A)''
 = {(L'・A - L・A')/A2}'
 = {(L''・A +L'・A' - L'・A' - L・A'')・A2 - (L'・A - L・A')・2AA'}/A4
 = (L''・A - L・A'')/A2
 < 0
よってこの点のiでL/Aは極大値をとる。つまり、十分小さなiの変化においては、負債/資産の比率は現時点を超えない。

基準(1)(2)(3)を満たしているとする。
この時
(L - A)'' = L'' - A'' = L''/L - A''/A < 0
よってこの点のiでL-Aは極大値をとる。つまり、十分小さなiの変化においては、負債-資産は現時点を超えない。
これがイシューペーパー・パラグラフ37のイミュナイズである。


パラグラフ38
金利が変動するとき、資産と負債のデュレーションが徐々に離れていくことがあり得ることから、デュレーションは継続的にモニタリングされるべきである。保有資産と保険契約の種類によっては、資産と負債のデュレーションやコンベクシティを算出することはしばしば困難である。(訳注8)
(訳注8)デュレーションとコンベクシティのみしか見ていない場合は、パラレルシフト以外のことが起こった場合には、大きなリスクがある。保険契約残高や金利の変動に応じ、ネットのデュレーションとコンベクシティが変化するたび、常に微調整を行う必要がある。
負債というか、保有契約については、金利が変動しなくてもシナリオの前提が変わればデュレーションも変わってしまうというのが厄介である。さらに、保有契約の組み換えは自由に行うことができない。金利以上に、保有契約のデュレーションモニタリングは注意が必要である。

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