2011年6月12日日曜日

IAISの「ALMイシューペーパー」を読む(13)

IAIS(保険監督者国際機構)作成の「ALMイシューペーパー」(「資産負債管理に関するイシューペーパー」(2006))を読む。<パラグラフ39からパラグラフ43>

パラグラフ39
バリュー・アット・リスク(VaR)とテイル・バリュー・アット・リスク(Tail VaR)
VaR尺度は、よく銀行にて用いられ、一定の保持期間(例えば10日間から1年)および信頼度水準に対する起こりえる損失に関する確率ベースの境界を表している。その保有期間は概して会社がとっているリスクのポジション/状況を解消するもしく解放されるまでの期間を表す。Tail VaR(条件付テイル期待値(CTE)としても知られている)は、大災害リスクや他の低頻度だが極めて深刻なリスクや長期に亘るリスクの計測にVaRより好ましいかもしれない。しかしながら、VaRやTail VaR のような分位尺度は例外的な状況や極端な事象において何が起こったのか正確に捉える能力に限界がある。これは、統計上の推論は十分な数量の観測なしには不正確であり、いかなる事象においても、過去の経験を未来に適用した推定に基づいており、そのことはシステミックリスクを必ずしも表すわけではない。(訳注9)
(訳注9)経済価値ベースの資産負債管理では、資産負債差額のVaR/TailVaRの計測が必要となる。
確率的な問題においてVaRは基本的であり、同時に数多くの限界も指摘されている。しかしVaRのメリット/デメリットの話はともかく、一体何のVaRを計測するか、また何に注意すべきかなどが分からない。
訳注にあるように、資産負債差額のVaRを計測するという話なのだろうか。解約率や金利による変動あたりが念頭に置かれているのだろうか。


パラグラフ40
流動性比率
保険会社は対象となる負債ポートフォリオの様々な対象期間に対する要求を満たすために、必要とされるだろう通常想定される流動性の額を見積もる必要がある。この額に予想を超えて流動性が要求された事象をカバーするマージンを加えて算出した比率を定めることができる。その流動性比率は保険会社の運用方針に大抵含まれている。(訳注10)
(訳注10)流動性の観点からの制約も資産負債管理に影響を与える。
ここでいう"流動性比率"というのは「流動資産÷一年間の(保険金・解約金等)支払額」ということでいいのかな? だとすれば、これはキャッシュフロー・マッチングにかなり近い手法になると思う。


パラグラフ41
キャッシュフロー・マネジメント
この資産負債管理手法の目的は、負債のキャッシュフローを資産のキャッシュフローと比較し、パラレルシフト、ツイストやベンドを含む金利変動の影響を測定することにある。その上で、望ましいリスクプロファイルを構築するようにキャッシュフローを調整する選択肢を検討する。
もしこれが完璧にできるならば、ALMとしては究極だと思っている。
ここでは"金利変動の影響を測定する"ことが目的だと書いているが、解約率や、死亡率、満期保険金のスケジュールなども内包している考えだと思う。

この手法の欠点は、とにかく難しいということだろう。
簡単に思いつくだけでも、
・シナリオは数本の確定的シナリオか、確率論的シナリオか
・シナリオの前提をどう作成するのか
・モデルはどのようなものを使うか
・アウトプットが膨大になるため比較が難しい
・時間およびマシンパワー/マンパワーの負担が大きい
・望ましいリスクプロファイルを達成できる方法の発見が、基本的にトライアンドエラーでしかなされない
などがある。


パラグラフ42
しかしながら、キャッシュフローの規模や時期を予測するのが困難なことも考えられる。例として損害保険における巨額な保険金支払や、生命保険の組込オプションの存在が挙げられる。加えて、保険会社はキャッシュフロー・マッチングに必要な性質を持つような資産を見つけることが困難かもしれない。例えば、償還時期が合致した資産があっても、発行者が保険会社の投資基準を満たしていないかもしれない。
どれだけ完璧な将来予測ができたとしても、結果として「条件に合う資産は現実に存在しない」ということがあるかもしれない、という重要な注意が書いてある。
イシューペーパーに書いてある以外にも、規模が釣り合わないといった問題は普通に起こり得ると思う。そうでなくても、複雑な保険負債特性を資産側が完全にフォローすることはそもそも不可能だと思っている。


パラグラフ43
キャッシュフロー・マッチングの精度は負債のキャッシュフローの確実性と組織の総利回り目標とリスク許容度に影響を受ける。高い総利回り目標や高いリスク許容度を持つ場合には、その収益目標率を満たすために、キャッシュフロー・マッチング度合いが低くなることも許容される。
ALMの目的は資産特性と負債特性を一致させることではない、ということが読み取れる。
「ALM基準」では
資産負債管理(ALM)は、資産と負債に関する経営上の意思決定や実際の行動が調和的になされているようにするための、経営管理の方法である。
と書かれており、このパラグラフの「取るべきアンマッチングリスクは能動的に取る」というポリシーを念頭において読むと、ようやく"経営上の意思決定や実際の行動が調和的になされている"の意味が取れたような気がする。

ALMの目的は「経営上の意思決定と資産負債特性を一致させること」というのはどうだろうか。

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