2011年6月27日月曜日

IAISの「ALMイシューペーパー」を読む(15)

IAIS(保険監督者国際機構)作成の「ALMイシューペーパー」(「資産負債管理に関するイシューペーパー」(2006))を読む。<パラグラフ52からパラグラフ58>

パラグラフ52
ストレステスト
ストレステストは、保険会社がリスク管理やリスクに対処するために十分な財務資源を維持するために役立つ。これについては、詳細にIAIS「保険会社によるストレステストに関する指針」(2003)に議論されている。ストレステストは、保険会社の将来の財務状態の下で、異なるストレスシナリオの全体的な影響を特定し、定量化するのに利用されうる。何が起こるかを予測するのではなく、起こるかもしれないことを検証するのに有効である(訳注14)。
(訳注14)ここでは、どの程度のストレスをかけるべきかということは明確にされていない。状況が悪化するシナリオを漠然と設定するのではなく、起こりうる事象を想定したうえで、その事象から影響を受ける複数のリスクファクター間の依存関係を意識してストレステストを実施することが重要であろう。また、ストレスをかけた際の資産・負債の影響度を見るだけではなく、実際にその事象が生じた場合のリスク管理上の対応策を検討しておくことも必要と考えられる。
デュレーションやVaR等はベストエスティメイトあるいは標準的なシナリオに対して計測するものであるのに対して、これは「可能性の低いシナリオで分析を行う」という点で異色である。
訳注でも補足されているように、「もし〇〇が起こったら」という前提で将来キャッシュフローの予測を行うのであるが、その仮定はレアケースであるが故にモデルに組み込みにくいこともあったりとか。
"状況が悪化するシナリオを漠然と設定するのではなく"とあるが、例えば発生率のシナリオを、実績から予測される推移のVaR99%水準まで引き上げる、といったことは行われる。

また、ストレステストはある"悪い事象"が起こったときのインパクトを確認する作業であって、その"悪い事象"がどれくらい起こりそうであるか(possibility)についてはなんら情報をもたらさない。

「保険会社によるストレステストに関する指針」(2003)へのリンクは
http://www.iaisweb.org/__temp/Stress_testing_by_insurers_guidance_paper.pdf


パラグラフ53
ストレステストは感応度テストやシナリオテスト双方を網羅する。感応度テストは完全に代わりのシナリオを考慮するのではなく、1つないし少数の変数を動かした影響を検証する。ストレステストの一部として使われるシナリオテストは、決定論的なシナリオテスト以上のことも考慮しなければならない場合がある。ストレステストのシナリオは例えば過去の事象やリスクデータベースを参照したモデリングまでをも含めることもある。
感応度テスト(sensitivity test)、シナリオテスト(scenario test)の説明は「保険会社によるストレステストに関する指針」の第3章にある。
パラグラフ18を取り出すと
18. Specifically, a sensitivity test estimates the impact of one or more moves in a particular risk factor, or a small number of closely linked risk factors, on the future financial condition of the insurer.
An example of a sensitivity test is the resiliency testing done in the U.K. and Australia.  A scenario test, by comparison, is a more complicated type of test, which contains simultaneous moves in a number of risk factors and is often linked to explicit changes in the view of the world.  Scenario tests often examine the impact of catastrophic events on an insurer’s financial condition, particularly in a defined geographical area, or simultaneous movements in a number of risk categories affecting all of the insurer’s business lines or trading operations, e.g., underwriting volumes, equity prices and interest rate movement.
とある。
感応度テストは、特定のパラメータのみを変化させることで、そのパラメータの影響度を測るテスト、シナリオテストはより複雑な前提やモデルの変化をテストすることのようだ。
この分類では、上で書いた発生率をVaR99%に引き上げるようなテストは感応度テスト、再保険の有無を見るならばシナリオテストに分類されるだろうか。
勿論完全に分類しきれるわけではないと思うが、新契約のシナリオなんかは、単純に契約件数を10%上下させる程度であれば感応度テスト、商品構成を変えていくならばシナリオテスト、というような気がするがどうなのだろう。


パラグラフ54
ストレステストは、保険会社固有のリスク特性や保険引受事業に適したものであるべきである。例えば、ストレステストは、どの保険会社も同一のリスククラスを引き受けたり、同一のリスク水準を引き受けたり、同一の販売制度を持っていたり、同一の再保険協定を利用したり、投資の種類、等級による同一の資産配分であったり、同一の経営システムや経営管理であったりすることはないといったことを反映している必要がある。
よく意味が取れなかったのだが、ストレステストは教科書的に定められた手法を単に適用するだけではだめで、事業特性に応じた個別のリスクに対しテストを行う必要があるというような主旨でいいのだろうか。


パラグラフ55
保険会社の資産負債管理リスクに対するエクスポージャーを正しく検証するためには、ストレステストは、多少悪くなるといった程度のものを扱うのではなく、保険会社の将来の財務状況に対して重大に不利な方向の脅威を扱うべきである。
なぜそうすべきなのかはよく分からない。しかし一般的に、どれくらい悪い事象が起こるとどれくらい悪くなるのかの限界を探っておくことには意義があると思う。


パラグラフ56
加えて、保険会社は必要資本の評価や戦略的計画、危機管理計画のためにストレステストを活用すべきである。取締役会や管理者は保険会社の財務状況を損なうには、あるリスクがどの程度不利な方向となるべきなのかを知る必要がある。これには、市場リスクや保険引受リスク、流動性リスクを含む保険会社の資産と負債から生じるすべてのリスクを含めなければならない。
全てのリスクについてストレステストが必要ということだろうか。リスクにも大小があることや、モデル化の難しいものも多いことから、全てをストレステストというのは過酷な気がする。


パラグラフ57
保険会社にとって市場リスクとは、金利、為替レート、株価の変動といった市場動向の結果、負債価値の変動では相殺されない資産価値の不利な方向への変動を意味する。ストレステストに実施する際、考慮すべきシナリオに関連する市場リスクの例は以下の通りである。
● 保険会社の財務状況に不利な方向の影響を及ぼす金利変動を引き起こすような厳しい経済もしくは市場の深刻な悪化の可能性
● ポートフォリオ全体に対して与える資産クラスの価格変動の影響
● 規制市場のルールの下で効力発生もしくは発行されてない、不動産やデリバティブのような資産が適切に評価されていないこと
● 通貨切り下げが関係市場や為替に与える影響だけでなく、ポートフォリオに直接与える影響
● 再投資リスクを含む資産と負債の全てのミスマッチの程度
● 金利の市場インデックスと無リスク金利のスプレッドの劇的な変化がポートフォリオ価値に与える影響
● 市場変動がセクター間でどの程度に非線形であるか、デリバティブなどのように、どの程度非線形の影響を与え得るか
● 格付けの引き下げや市場における信用スプレッドの変動が資産価格に与える影響
● 契約に基づき、保険契約者オプションの行使に対して金利変動が及ぼす影響
"ストレステストに実施する際"は助詞がおかしい。

市場リスクに関しては前のパラグラフでかなりの説明がなされていたが、再度例示されている。
特に、ストレステストで重要なものということだが、やはりモデル化の難しそうな例が多い。


パラグラフ58
流動性リスクは、保険会社が債務の支払い期限到来までにその債務への資金供給のために必要な資産を損失を被らずに換金出来ない可能性に関係する。保険会社のキャッシュフローが保険契約者や他の債権者への責任を果たすために十分であるかどうかを理解することは、根本的に重要である。ストレステストを行う際に考慮すべきファクターには以下の点が含まれるが、それらに限定されるものではない。
● 予想された資産、負債のキャッシュフロー間のすべてのミスマッチ
● 資産を即座に売却出来ないこと(公正かつ妥当な価格で)
● 保険会社の資産がどの程度まで担保されているか
● 通常の保険会社のキャッシュフローポジションと、保険金支払による予期できない資金の流出、または保険料収入の予期できない低下に耐える能力
● 市場流通性の様々な水準において、大きな資産ポジションを削減する必要が生じる可能性とそれに関連した潜在的コストおよびタイミングの制約
流動性リスクも同じく、前のパラグラフで説明されてきたが、ストレステストにおいて重要なものが例示されている。また、モデル化の難しそうなものが多い。

さすがにこれら全てについてストレステストを、しかも決定論的シナリオ以上の手法も使用しながら行うというのは、必要のレベルを些か超えている気がする。

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