2011年4月22日金曜日

IAISの「ALMイシューペーパー」を読む(6)

IAIS(保険監督者国際機構)作成の「ALMイシューペーパー」(「資産負債管理に関するイシューペーパー」(2006))を読む。<パラグラフ9からパラグラフ11>

パラグラフ9
保険契約により、保険契約者には支払方法(年金/一時金)選択オプション、契約者貸付オプション、(保険料)超過預入オプション、および解約権や契約更新権など多くのオプションが与えられるだろう。これらの組込オプションは、保険契約者に更なる柔軟性を与える。しかしながら、仮にこれらが適切に管理されない場合は、保険会社には、保険契約期間中追加の費用が発生し、潜在的には流動性コストとなり得るだろう。
このパラグラフから保険引受リスクに入る。パラグラフ9からパラグラフ11は保険契約者の行動に関してである。
「ALM基準」要件Ⅳの注にもあるように、ここでいう"保険引受リスク"の指す範囲は広い。市場リスクが大雑把に言って"資産サイドのリスク全て"であったのに対して、"保険引受リスク"は"負債サイドのリスク全て"と思ってもいいように見える。
しかし、ALMの対象となるものは保険引受リスクの全てではない。「ALM基準」では"保険引受リスクの中には、資産負債管理として取り組むべきものが存在する可能性がある"となっている。
ALMの対象となる保険引受リスクの内、重要なものの一つが、契約に組み込まれたオプションと契約者の行動に関するリスクである。

このパラグラフでは、この"契約者の行動"に関わるリスクは、畢竟"流動性コスト"であると言っている。
しかし、「ALM基準」では対象となるリスクを
ⅰ.市場リスク
ⅱ.保険引受リスク
ⅲ.流動性リスク
という風に分類しており、これは"ⅲ.流動性リスク"とどのような関係にあるのかが解しづらい。逆に流動性リスクに関するパラグラフであるパラグラフ16でも"保険会社にとって流動性の問題を引き起こす潜在的な要因の一部"として
・ 否定的な評判(これは失効契約を増加させ得るだろう)
・ 保険契約者の行動
が挙げてある。

"流動性コスト"と"流動性リスク"の使い分けなど、細かい機微は分からないが、ともかく解約の増加などの契約者群団の挙動が流動性の問題を引き起こすこと、またそれらはALMの問題として認識し、管理していく必要のあるものだということが重要だろう。

パラグラフ10
保険会社は、新契約や既契約の組込オプションの特性やそれらが資産負債管理に与え得る影響を理解しなければならない。保険会社は、これらのリスクは一般的に分散可能ではない事を認識して、そのリスクを軽減するような方法で資産と負債を管理しなければならない。
これらのリスクは分散可能ではないというのは、大数の法則では解決できない問題ということである。もちろん解約率などは大数の法則によって制御できる側面はあるので、これは"契約者の行動は大数の法則では制御できない"ということを言っているというよりは、逆に"大数の法則では制御できない問題がALMの対象である"という方にニュアンスが近いのでないかと思う。
具体的には金利上昇局面における解約率の増加などが典型例だろう。

また、"そのリスクを軽減するような方法で資産と負債を管理"ということで、これは資産側のポートフォリオのみで解決する問題ではないことを示唆している。負債サイド、つまり契約内容や販売政策等にもALM的な観点から対策を施しておけということだと思う。

パラグラフ11

以下の項目は、保険契約に一般的に組み込まれているオプションのうち資産負債管理で考慮されるべき事柄である。
● 満期時または早期解約において、契約者持分の返還を最低保証する投資商品。このオプションは、継続率に影響を与え得る。
● 保険金受取人が一時金または年金での受け取りを選択できる支払方法(年金/一時金)選択オプション。一時金受け取りの場合は流動資産が必要となるが、一方で、年金受け取りの場合は長期のデュレーションにマッチする資産を得ることが困難である可能性がある。
● 保険契約者が満期時に現金を一括して受け取るか、または事前に定められた利率、死亡率での年金受け取りを選択するオプションを有する積立型年金契約。
● 満期時だけでなくいつでも現金を簿価で引き出すオプションを有する積立型年金契約。
● 保険契約者は、いつでも定められた条件で保険契約に対する解約返戻金を担保に借入れができる契約者貸付オプション。
● 保険契約者が必要となる保険料以上に保険料を払い込むことが可能で、事前に定められた利率で利殖される(保険料)超過預入オプション。
● 保険契約者が満期時以前に保険契約を解約し、保険料の払い込みを停止して解約払戻金を受け取ることができる解約権。
● 保険契約者はあらかじめ定められた料率で保険契約を更新する権利か、または更新時において保険契約を更新しない権利が付与される契約更新権。
● 保険契約に付与する予定利率(の大小)は解約率に影響を与える可能性があり、その結果、予想外の流動化や資産の再投資が必要となるだろう。
保険会社が格付け機関から格下げされることやその他の不利な評判などのある種引き金となる事象により、特に団体保険契約においてより高い水準の保険契約の解約が発生するおそれがある。このことは、流動性の問題につながる可能性があるだろう。

・満期時または早期解約において、契約者持分の返還を最低保証する投資商品
確かに、ほとんど解約返戻金のないような商品ならば流動性の問題は起こらないし、また解約返戻金が資産価格と連動しているならば、これも問題は少ないと思う。

・保険契約者が満期時に現金を一括して受け取るか、または事前に定められた利率、死亡率での年金受け取りを選択するオプションを有する積立型年金契約
死亡率が影響してくるということで、確定年金ではなく、生存年金ということか。これは逆選択の話かと思うのでALMとは少し問題点がズレている気もするが。
もちろん、一括受取を選択する人の割合が予想と大きく違う場合はALM的な意味での問題が起こる。これは事前に定められた利率と満期時の市場利率に関する部分がALMの対象だろう。(死亡率に関する逆選択は分散可能である。)

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